フットポンプ

家族
家族

おじいさんの足にグルグルまかれているのって何かしら?

医師
医師

一般的にフットポンプと呼ばれるものです。

脚を空気圧で圧迫することにより、静脈の血行を促進し、静脈血栓塞栓症の予防および血液のうっ滞や浮腫を軽減します。

静脈還流

 動脈は心臓の拍動により血液を循環しますが、静脈は静脈弁と呼吸ポンプ、筋ポンプ、フットポンプによって行われます。四肢の静脈、特に下肢から心臓に血液を戻すには重力に逆らわなければならないので、これらの機能が重要となります。

静脈弁

 静脈血の逆流防止の為にある弁で、心臓から遠く離れた四肢の静脈に多く存在します。静脈血の流れが悪くなると、静脈弁のバルブポケットに血栓ができやすくなります。静脈弁が何らかの理由で壊れてしまい、静脈血が逆流すると静脈瘤を発症します。

呼吸ポンプ

 呼吸によって変化する胸腔と腹腔の圧較差により、ポンプ作用を得て静脈血を環流させます。

筋ポンプ

 筋肉の収縮と弛緩によって、静脈血を心臓に戻します。特にふくらはぎでの効果が大きい。

フットポンプ

 歩行などにより足底部の足底静脈叢に負荷が加わると、静脈血を押し上げる為の ポンプ作用を得ることができます。足底静脈叢には20~30mL の静脈血が溜まります。歩行など血管が圧迫されることで静脈血が押し上げられます。

深部静脈血栓症(DVT)

 静脈は以下に分類されます。
表在静脈:皮下を走行
深部静脈:筋肉の中や骨の側にある
穿通枝:表在静脈と深部静脈をつないでいる短い静脈

 この深部静脈には一方弁があり、血液の逆流を防いでいます。深部静脈の周囲は筋肉が取り囲んでいて、それが静脈を圧迫することにより、静脈血を心臓に押し出しています。
ちなみに脚から心臓へ向かう血液の90%以上は深部静脈によってなされており、この深部静脈に生じる血栓症を深部静脈血栓症(DVT)といいます。またDVTは上肢に生じることは少なく,大部分が下肢に発生します。(1)

静脈血栓の形成はウィルヒョウの3徴の相互作用が大きく関係します。

ウィルヒョウの3徴

ウィルヒョウの3徴原因リスク因子
血流停滞好中球の内皮接着や内皮の低酸素状態
※内皮障害や凝固亢進の必要条件
・長期臥床
・肥満
・妊娠
・全身麻酔 etc.
血液凝固能亢進凝固系や線溶系における制御機構の破綻・手術
・外傷外傷、骨折
・中心静脈カテーテル留置
・カテーテル検査、治療  etc.
血管内膜の損傷好中球から誘導されるサイトカインや組織因子
・悪性腫瘍
・薬物(経口避妊薬など)
・感染症
・脱水 etc.

 VTEは手術後や出産後、あるいは急性内科疾患での入院中などに多く発症し、ときに不幸な転帰をとることから,その発症予防が非常に重要となる.わが国の肺血栓塞栓症(PTE)が発症した場合の院内死亡率は14%と報告されているが、死亡例の40%以上が発症1時間以内の突然死であるとされる。(1)

※肺血栓塞栓症(PTE) :血栓が遊離して静脈血流にのって肺に移動し、肺動脈を閉塞する病態。原因のほとんどが深部静脈血栓症であることから、深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症は1つの連続した病態、さらには深部静脈血栓症の合併症が肺血栓塞栓症であると捉えられている。

みく
みく

どうしたら予防できるのだろう?

抗凝固薬を増やしたら出血のリスクがあがるんじゃないの?

CEさん
CEさん

周術期管理において、薬物療法は大量出血のリスクになります。

そのためDVTには理学的予防が大事なんです!

一般外科手術(非整形外科)のリスクレベル分類

2004年に「肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン」が発刊されました。それにより同年の診療報酬改定において「肺血栓塞栓症予防管理料」(入院中1回に限り算定:305点)が保険収載(2)→これにより死亡率は低下してきている。

リスクレベルを4段階に分けて予防方法が決められる。

リスクレベル一般外科・泌尿器科・婦人科手術推奨される予防法
低リスク60歳未満の非大手術
40歳未満の大手術
早期離床および積極的な運動
中リスク60歳以上,あるいは危険因子のある非大手術
40歳以上,あるいは危険因子がある大手術
早期離床および積極的な運動
弾性ストッキングあるいはIPC
高リスク40歳以上の癌の大手術早期離床および積極的な運動
IPCあるいは抗凝固療法
最高リスクVTEの既往あるいは血栓性素因のある大手術早期離床および積極的な運動(抗凝固療法とIPCの併用)あるいは(抗凝固療法と弾性ストッキングの併用)

※大手術の厳密な定義はないが,45分以上要する手術を基本とし,麻酔法,出血量,輸血量,手術時間などを参考として総合的に評価する

弾性ストッキングの効果

 下肢を圧迫することで静脈の総断面積を減少させることにより血流速度を増加、静脈血のうっ滞を減少させる。合併症が少なく、簡易で、値段も比較的安いという利点が。中リスクの患者ではVTEの有意な予防効果を認める一方、高リスク以上では単独使用での効果は弱い。しかしわが国での医療機器関連圧迫創傷(いわゆる褥瘡)の発生率の高い原因になっていることから、弾性ストッキング装着中には皮膚障害、および虚血性の壊死に十分注意をする。とくに末梢動脈の閉塞性疾患を合併する場合、急性の炎症を合併している場合、DVTの急性期、糖尿病を合併している場合は、後述の間欠的空気圧迫法(intermittent pneumatic compression;IPC)も同様にその適応を十分に検討する。

間欠的空気圧迫法(IPC)(=いわゆるフットポンプ)

下肢を間欠的空気圧迫にてマッサージし、下肢静脈うっ滞を減少させる。高リスクでも有意にVTEの発生率を低下させ、とくに出血のリスクが高い場合に有用となる。原則として手術前、あるいは手術中より装着を開始し、少なくとも十分な歩行が可能となるまで施行するやむを得ず手術後から装着する場合などで、使用開始時にDVTの存在を否定できない場合には、十分なインフォームド・コンセントを取得して使用し、PTEの発生に注意を払う。安静臥床中は終日装着し、離床してからも十分な歩行が可能となるまでは臥床時には装着を続ける.

また経口避妊薬服用者は非服用者にくらべVTE発症のリスクが高いので、低用量経口避妊薬の添付文書では手術前4週以内の投与は禁忌となっている。したがって手術予定患者では術前4週前から投与を中止するが、経口避妊薬服用者が緊急手術をせざるを得ない場合はリスクレベルを1段階上げたVTE予防を行うことを考慮する。

DVT予防禁忌

末梢動脈疾患(PAD)をもつ患者に、深部静脈血栓症(DVT)予防を目的として弾性ストッキングまたは間欠的空気圧迫法を行うことは、末梢の動脈血流障害を増悪させ、重篤な病態に進展させる可能性があり、一般的には禁忌と考えられています(1)

そのため、深部静脈血栓症予防法を決定する際にPADの既往の有無を確認することは非常に重要となります。

PADと診断されていない患者でも高齢者や糖尿病を合併している場合は注意が必要で、下肢痛や間欠性跛行の有無を事前にチェックするなど、常にPADを念頭に置いた慎重な対応が必要です。弾性ストッキング装着後または間欠的空気圧迫法開始後は、経時的に自覚症状(足趾のしびれ、疼痛、瘙痒感)の有無、他覚所見(皮膚の色調の変化、浮腫、びらんなど)の有無をチェックし早期に異常を発見することが重要となります下肢に壊死や潰瘍を認めた場合は、PADが合併している可能性を考慮し、ただちに弾性ストッキング、間欠的空気圧迫法を中止します。

PADの可能性について検討するには、まず足関節血圧や足関節上腕血圧比(ABI)の測定が重要となります。

その他リスク因子

 ・深部静脈血栓症  ・心臓への血流増加が有害な時
 ・肺動脈塞栓症  ・静脈や リンパへの環流量増加が望ましくない時
 ・急性血栓性静脈炎  ・うっ血性心不全による肺浮腫
 ・広範囲な下肢の浮腫  ・圧迫部分に、皮膚炎を有する時 
 ・静脈結紮(手術直後)  ・植皮直後 下肢の壊疽

CEさん
CEさん

SCDでは患者のいまの状態に適した間欠的空気圧迫を行えるよう、自動で静脈血の充満時間を測定し圧迫する機能があります。

引用

(1)肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に
関するガイドライン(2017年改訂版)

(2)今日の臨床サポート

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